お茶の間シネマトーク「アフターサン」
父と娘、ふたりだけの異国トルコでの夏休み。
父と母は離婚して数年たっている様子で、娘のソフィは母親と暮らしてはいるものの大のパパっ子であるのが伝わってきます。
こうしてふたりで過ごすバカンスはお互いにとってかけがえのない特別な時間であり、慣わしになっているようです。
ソフィは11歳。ちょうどこどもから思春期へと移りかわる年齢で、あどけなさのなかにもどこか大人っぽい表情がちらちらと顔をのぞかせます。
ふたりは本当に気の合う相棒のようで、おそらくんパパとこんなふうにじゃれあったり、からかいあったり、甘えたり、すべてを一緒に楽しめるのはこのぐらいの年齢が最後なのかもしれません。
そんな楽しいバカンスを、慣れない手つきでビデオにおさめるソフィ。
幼い彼女の目には、父親も自分と同じぐらい楽しんでいるとしか映らないのですが、父親は明らかにこころに葛藤を抱えており、精神的な不安定さが随所にあらわれており、不穏な空気を感じずにはいられません。
そして、ソフィがそのときの父親と同じ30歳になったとき、そのビデオはまったく彼女の記憶とは違うものを映し出しているのに気がつくのです。(→予告をみる)
この今にも壊れてしまいそうなふたりの関係のあやうさと濃密な愛情のコントラストが、観ていてとても切なくなりました。
どこか儚くて、切なくて、愛しさあふれる作品で、ソフィア・コッポラの「バージン・スーサイズ」のような透明感のある一本でした。