お茶の間シネマトーク「パリタクシー」
休みなく働いても十分なお金を稼げず、家族の面倒をみられない罪悪感にさいなまれ、さらに免停寸前というタクシー運転手のシャルル。
そんな生活苦から、すっかりやさぐれて凶暴な野犬のように誰にでもくってかかるありさま。
そんなシャルルが請け負った仕事は、92歳の老女をパリのはじっこの自宅からはじっこの老人ホームまで送り届けること。
こころを閉ざして面倒くさそうに運転するシャルルに対して、まったくおかまいなしに打ち明け話をはじめる老女マドリン。
夢みるような初恋の話から始まって、彼女の人生はじょじょに度肝をぬくような展開をたどってゆきます。
シャルルもただものではないその老女の話に、いつしかひきこまれてゆくのです(→予告を見る)。
老人ホームへと車を走らせながら、マドリンがまるで見納めをするがごとくさまざまな場所へ立ち寄ることを提案します。
ひとつひとつに立ち寄りながら、そこで明かされるマドリンの過去。・・・いつしか陽が傾き、レストランでワインを傾け、手を組んで街を歩くふたり。
シャルルの表情はまるで別人のようで、かつての優しさを取り戻し、ふたりの間にはまるで旧知の友人のような親密さが生まれているのです。
私たちが窮地に立たされて、何の助けもやって来ないような孤独感を感じるとき、それでもじつは助けはちゃんとやってきているものです。
私たちは自分が予期しているところにしか答えを探そうとしないので、せっかく与えられている答えをみすみす見逃してしまいがちなのです。そして、「私は助けてもらえない」とボヤきます。
答えは自分が思うよりもずっと近く、すぐ目のまえにやってきています。
それは、そのとき自分の目のまえにいるその人です。
しかし、私たちは問題にばかりこころを奪われすぎているため、その答えさえも簡単にシャットアウトしてしまいがちなのです。
答えは人を通してやってくるのです。目のまえのその人こそが、そのときの自分のエンジェルです。
しかし、「こんなときに、この人の相手などしていられるか!」「自分のことだけで忙しいのに、迷惑だ!」と、そのエンジェルを押しやってしまい、せっかくの答えを受け取るチャンスを逃してしまいます。
シャルルも老女を送り届ける仕事に対して「そんな遠いところまで行けるか!」と一旦断ったものの、会社側から「まとまったお金になるわよ」と提案され思いなおしたのでした。
シャルルは自分に与えられた助け主に、最初からこころを開いていたわけではなかったのです。
しかし、マドリンの打ち上げ話にすっかりこころを奪われ、話に耳を傾けるうちにみるみるこころはほぐれ、彼らしさを取り戻してゆきます。
マドリンという老女を遠くまで送り届ける一日が、彼にとってはこころが愛にもどる奇跡の一日となるのです。
私たちにも、このような答えはいつもやってきています。
そのときそのときに、目のまえにいるその人にこころを開いて丁寧にかかわってみる。その人をジャッジするのではなく、無条件に受け入れて信頼してみる。
シャルルのように人生の答えや思わぬ贈りものは、すぐ目のまえで見つかるかもしれません。
涙壺度:★★★☆☆(私もシャルルと一緒に癒されました・・・💖)